研究概要 |
DJ-1遺伝子は,家族性パーキンソン病(PARK7)の原因遺伝子として報告されたが,その生物学的機能については未解明なことが多い.本研究では,パーキンソン病病態モデルラットを使用しその生物学的機能を以下のように明らかにした. DJ-1タンパク質は106番目のシステイン残基が自己酸化することにより活性酸素分子種(ROS)を還元(消去)することが研究代表者らにより明らかにされていたが,これらの研究成果は培養神経細胞を用いてなされてきた. 本研究では,DJ-1タンパク質のヒトパーキンソン病への臨床応用を目指すため,動物個体におけるROSによる神経変成作用に対するDJ-1タンパク質の機能を解析した.ラット中脳に,パーキンソン病様病態を誘起する6-ヒドロキシドパミン(6-OHDA)を微量注入しパーキンソン病病態モデルラットを作成した.このモデルラットに,DJ-1野生型,家族性パーキンソン病患者で見出されたL166P変異体タンパク質を6-OHDAと同時に中脳内投与した.その結果,6-OHDAはチロシンヒドキシラーゼ(TH)陽性神経細胞を変性させるが,野生型DJ-1同時投与すると神経細胞損傷を70%以上抑制することが明になった.また,変異体タンパク質では細胞損傷抑制能は見出されなかった.さらに,各種投与ラット運動障害性を検討したところ,野生型DJ-1投与群では著しくパーキンソン病特有の運動障害が改善された. さらに,6-OHDA注入後24時間後に野生型DJ-1タンパク質を投与した場合でも,細胞障害,運動障害が抑制・改善されることが明らかになった.(Neurobiol.Diseas., 24:144-158(2006)) これらの結果は,DJ-1タンパク質のパーキンソン病治療薬として臨床応用が可能であることを示し,さらなる機能解明,創薬開発,薬物送達法開発など更なる研究課題が提起された.
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