イオンチャネル内在型ATP受容体(P2X受容体)サブタイプの一つであるP2X_7受容体は陽イオンチャネル活性に加えて分子量300程度までの陽陰両イオンを透過させる小孔形成活性を有している。また、アポトーシスあるいはネクローシス様の細胞死を誘導することも知られているが、その詳細な機構は明らかではない。平成18年度の本研究計画ではマウス脾臓由来T細胞におけるP2X_7受容体活性化を介した細胞死誘導機構について検討した。 4-6週齢雄Balb/cマウスから摘出した脾臓より常法に従い細胞を調製し、ATP処置により誘導される細胞縮小化(初期アポトーシス様変化)をフローサイトメーターを用いて観察したところ、細胞外液中の塩素イオン濃度を低下させることにより細胞縮小は抑制されたが、Extracellular signal-regulated protein kinase 1/2(Erk1/2)リン酸化阻害薬U0126の前処置では抑制されなかった。また、ATP処置によるErk1/2のリン酸化は細胞外液中の塩素イオン濃度に影響されなかった。一方、ATP処置による細胞死の誘導は細胞外液中の塩素イオン濃度の低下およびU0126前処置により相加的に抑制された。以上の結果からP2X_7受容体活性化による細胞死の誘導は細胞外の塩素イオン濃度に依存したアポトーシス様経路とErk1/2のリン酸化を介した経路の独立した二つの経路を介して誘導されることが示された。また、T細胞表面のP2X_7受容体をADPリボシル化することで活性化を誘導すると考えられているNADの効果の検討した結果、NADは、ATPに比べて小孔の形成能は弱く、細胞縮小はほとんど誘導できなかった。また、細胞死の誘導能も弱かったが、ホスファチジルセリンの細胞表面への露出は反対に強かった。以上より、ATPとNADによるP2X_7受容体活性化には異なる機構が存在することが示唆され、それぞれが果たす役割に違いがあるものと考えられた。
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