研究概要 |
周期的伸展刺激は、3T3-L1マウス前駆脂肪細胞に対して、ERK/MAPKの持続的活性化を介してPPARγ_2の発現を抑制することにより、成熟脂肪細胞へのコミットメントを阻害する。この効果は、ω3系多価不飽和脂肪酸(PUFA)の一種エイコサペンタエン酸(EPA,C_<20:5>,ω3)との併用により相乗的に増強されるが、ドコサヘキサエン酸(DHA,C_<22:6>,ω3)との併用では相乗効果は見られない(Tanabe, et. al.,2008)。これら構造が類似したPUFAsの作用の違いを説明するために、誘導型シクロオキシゲナーゼCOX-2の基質特異性の関与を想定し、実際に周期的伸展刺激によるCOX-2の発現誘導とEPA共存による増強、ならびにCOX-2特異的阻害剤による相乗効果の消失が起こることを明らかにした(Tanabe, et. al.,2008)。脂肪細胞分化はプロスタノイド(PG)により正負に影響を受けるため、脂肪細胞分化のコミットメント期に力学刺激を与えることの意義として、PPARγ_2の発現低下に加えて、COX-2依存的PG合成の促進が重要である。炎症性サイトカインIL-1βはCOX-2を誘導するとともにPPARγの不活性化による脂肪細胞分化抑制効果を有するが、EPAを併用しても相乗効果は見られず、炎症性メディエーターによるものとはメカニズムが異なることが推察された。インビボでは、バイブレーションによる脂肪組織へのメカニカルストレス負荷の実験系を構築し、生後4週の幼マウスにEPAエチルエステル経口投与と100Hz 30分間1日2回の腹部バイブレーションを併用すると、刺激期間の体重増加率が有意に抑制されることを見出した(n=5)。摂餌量、体重増加率、脂肪組織および血漿中の生化学および脂肪細胞マーカーには今のところ有意な差を検出しておらず、より長期の刺激期間および脂肪組織の組織学的解析を含めて引き続き検討を要する。
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