血漿型PAF-アセチルヒドロラーゼの遺伝的欠損(V279F変異)の有無をヘンイプライマーを用いたRT-PCR法により確かめた結果、V279F変異を有する者を見出し、この者の血漿にはPAFの分解活性が全く見出されないことを確かめた。次に、酵素欠損を有するヒト血漿と正常な酵素活性を持つヒト血漿から脂質画分を抽出し、ESI/MS/MS方による分析に供したところ、両者の間に差は認められず、また、Cu^<2+>による酸化修飾を加えた場合も酸化脂質の蓄積は認められなかった。そこで、血漿より密度勾配遠心法によりLDL画分を調製し、質量分析に供したところ、酵素欠損を有するヒト血漿LDLにCu^<2+>による酸化修飾を与えた場合、リノール酸の1酸素体および2酸素体を結合するホスファチジルコリン分子種が顕著に増加することが明らかとなった。これらの分子種の構造はヒドロキシリノール酸およびヒドロペルオキシリノール酸を有するホスファチジルコリンと推定され、血漿LDLに結合する血漿型PAF-アセチルヒドロラーゼはこれらの非酵素的ラジカル反応により生成する酸化リン脂質の分解除去に役割を果たすことが示唆された。一方、血液の全PAF-アセチルヒドロラーゼ活性の30%を占める赤血球には細胞内I型PAF-アセチルヒドロラーゼがそのほとんどの酵素活性を担うことが明らかとされている。そこで、この酵素をクローニングし大腸菌に発現させたリコンビナント酵素を調製し、細胞膜脂質やLDL脂質を酸化させたものに作用させ、質量分析法によって解析した結果、ヒドロキシリノール酸およびヒドロペルオキシリノール酸を有するホスファチジルコリンの分解は引き起こされなかった。従って、I型酵素と血漿型酵素の基質特異性は大きく異なり、酸化脂質の分解には血漿型PAF-アセチルヒドロラーゼが重要な役割を果たすことが明らかとなった。
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