前年度の本課題における研究成果として、血漿型PAF-アセチルヒドロラーゼの遺伝的欠損(Val279Phe)を有するヒト血漿LDLをCu^<2+>で処理すると、正常な遺伝子型のPAF-アセチルヒドロラーゼを有する血漿LDLと比較して、ヒドロペルオキシリノール酸およびヒドロキシリノール酸を有するボスファチジルコリン分子種が顕著に増加することを、ESI/MS/MS法により明らかとした。これらの脂質分子種は、血漿LDLの酸化修飾により非酵素的ラジカル反応によって生成されたと考えられることから、血漿型PAF-アセチルヒドロラーゼは、血漿LDLの酸化による酸化脂質分子種の蓄積に対して防御的役割を果たしていることが示唆された。一方、ヒト赤血球膜脂質をCu^<2+>で処理した後に、赤血球に存在する主要なPAF-アセチルヒドロラーゼサブタイプであるI型PAF-アセチルヒドロラーゼを作用させた場合の酸化脂質分子種について、ESI/MS/MS法により分析した結果からは、この酵素は、これらの酸化脂質分子種を基質とし分解せず、血漿型酵素とは異なる脂質を基質としている可能性が示唆された。この結果に基づき、ヒト赤血球をA23187で刺激した場合の脂質分子種をESI/MS/MS法により分析したところ、酸化脂質分子種の量的変化は認められなかったが、16:0および18:0のアルキル鎖を持つPAFが増加することを見出した。赤血球膜のホスファチジルコリンは大部分がアシル型であることから、PAFよりもacylPAFの生成が多いことが予想されたが、実際には、PAFの生成がほとんどでありacylPAFの生成量は少なく、赤血球は量的に少ないlysoPAFから選択的にPAFを生成するメカニズムを持つことが明らかとなった。
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