1.Ras経路の不活性化を介した細胞死誘導:TNIIIによってβ1インテグリンを活性化した時の細胞内シグナル分子の活性化動態を観察した結果、FAK(Tyr397)、src(Tyr416)、FAK(Tyr925)の脱リン酸化に加えて、Rasの不活性化に続いて下流のAkt、Badの脱リン酸化が認められ、最終的にカスパーゼ非依存性DNA断片化が確認された。そこでカスパーゼ非依存性アポトーシス誘導因子であるAIF(apoptosis inducing factor)の細胞内動態を見た結果、TNIIIによってAIFの核移行が促進された。 2.Rac経路を介したROS産生:TNIIIによりRacの活性化とROS産生上昇が観察された。TNIIIによるアポトーシスが不活性変異型Rac導入や抗酸化剤NACの併用によってブロックされたことから、Rac/ROS経路の関与が示唆された。 以上より、Rac/ROS経路からのシグナルもアポトーシスに関与していることが考えられる。 3.Ras活性レベルと細胞死:正常線維芽細胞NIH-3T3では、TNIIIによるインテグリン活性化に伴い、Rasの活性化が引き起こされたのに対し、悪性細胞WI38VA13ではRasは一過的に不活性化した。この違いを明らかにすべく以下の検討を行った。まず、TNIIIは高濃度では、上記のように一過的にRasを不活性化したのに対し、低濃度では逆に活性化した。さらに、恒常的活性型Rasを導入すると細胞死が誘導された。次に、活性型Rasを安定的に発現するNIH-V7を調製し、TNIII応答を親株NIH-3T3と比較した。まず、Rasの活性化を調べると、NIH-3T3では、不活性状態にあるRasがTNIIIによって活性化されたのに対し、NIH-V7では、TNIIIを作用させると恒常的活性状態にあるRasが短時間で一過的に不活性化した。また、TNIIIを作用させた時の細胞の生存状態をみると、NIH-3T3ではTNIIIの濃度に依存して生存数が上昇したが、NIH-V7では逆に生存数減少が確認できた。 以上から、TNIIIは、恒常的活性化状態にあるRasにさらなる活性化シグナルを伝えてRasのダウンレギュレーションを引き起こし、その結果として未知のシグナル経路が作動してアポトーシスが誘導されることが示唆された。
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