胎生期の大脳は神経系前駆細胞の活発な増殖、分化により発達していくが、増大する組織に栄養や酸素を供給する血管の発達も重要である。しかし、胎仔の脳の血管平滑筋の起源や血管新生についてはまだよく分かっていない。私たちはこれまでに、血管内皮細胞から分泌されるエンドセリン(ET)により神経系前駆細胞の増殖が促進されることを報告したが、ETにより増殖した細胞は神経細胞、アストロサイトと共に、平滑筋細胞特異的蛋白質を発現する細胞にも分化することを見いだした。そこで今年度はG蛋白質共役型受容体(GPCR)を介する神経系前駆細胞の平滑筋細胞への分化について研究を行った。平滑筋細胞特異的蛋白質である平滑筋アクチン(SMA)の発現を指標にして検討すると、ETだけでなく他のGPCRアゴニストのリゾホスファチジン酸やカルバコールによっても発現が上昇した。一方、やはり血管内皮細胞由来分子であるTGF-βで細胞を刺激してもSMAの発現が上昇し、GPCRアゴニストと共に刺激すると相加的な上昇を示した。大きく広がった細胞体、太いアクチンファイバーなどの形態変化は平滑筋細胞への分化を示している。つぎに、SMAの発現調節ついてreporter assay で検討した。ETおよびTGF-β刺激によるSMA遺伝子の転写活性は、ET刺激では3時間をピークに、TGF-β刺激では24時間過ぎてから活性化がみられた。両アゴニストで刺激すると上記の2つの活性化のピークとほぼ一致する二相性の活性化が観察され、両者の独立した経路が示唆された。ETによる転写活性の促進はRhoAを介し、TGF-βによる活性化はSmadを介していると考えられる結果を得た。一方、SMA蛋白質発現は細胞外マトリックス依存的であるが、転写活性は非依存的であったので、細胞接着は翻訳に重要と考えらる。以上の結果から、血管内皮細胞由来分子のETとTGF-β、そしてインテグリンからのシグナルが協調して神経系前駆細胞の血管平滑筋細胞への分化を促進していると考えられる。
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