胎生期の脳は、神経系前駆細胞の活発な増殖と分化により発達していくが、様々な細胞外からの刺激分子により制御されている。私たちはこれまでに、エンドセリン(ET)がこの細胞の増殖を促進すること、この増殖促進は接着依存性であること、ETにより増殖した細胞は神経、グリア細胞の他、平滑筋細胞にも分化することなどを報告した。本研究では、まず、G蛋白質共役型受容体(GPCR)を介する神経系前駆細胞の平滑節細胞への分化について研究を行った。平滑筋細胞特異的蛋白質である平滑筋アクチン(SMA)の発現を指標にして検討すると、ETだけでなく他のGPCRアゴニスト、リゾホスファチジン酸やカルバコールによっても発現が上昇した。一方、TGF-βで細胞を刺激してもSMAの発現が上昇し、GPCRアゴニストと共に刺激すると相加的な上昇を示した。つぎに、SMAの発現調節ついてreporter assayで検討すると、ETとTGF-βは独立した経路で制御していることが示唆された。ETによる転写活性の促進はRhoAを介し、TGF-βによる活性化はSmadを介していると考えられる結果を得た。つぎに、ETによる増殖作用の分子機構についてはまず、ETによる神経系前駆細胞増殖促進に関わるG蛋白質について最近開発されたGq/11の特異的阻害剤、YM-254890とGiの阻害剤、百日咳毒素を用いて検討し、ERKの活性化にはGi/Rasと、Gq/11/protein kinase C(PKC)経路が関与していることが明らかになった。接着依存性ついてはインテグリンに集積するFAKとpaxillinのチロシンリン酸化を指標にして検討すると、ETはFAKやpaxillinのリン酸化を上昇させ、これはET-B受容体アンタゴニスト、YM-254890、PKC阻害剤で抑制された。これらの結果から、ET受容体により活性化されたGq/11はPKCを介してインテグリンシグナルも活性化してETによる細胞増殖促進の接着依存性に寄与していると考えられる。
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