研究課題
当研究室で合成された4'-エチニル-d4Tは、抗HIV薬として使用されているスタブジン(d4T)よりも高い活性を示すばかりではなく、種々の細胞に対する毒性も低い。更に、抗HIV薬の重篤な副作用である末梢神経障害の原因となるミトコンドリアDNA合成阻害作用も示さない。今後抗HIV薬として開発するためには、動物を用いる安全性試験やその後の第一相臨床試験に本化合物を大量に供給する必要がある。既に我々が報告した合成法では、不飽和糖ヌクレオシドをエポキシドへ誘導しアルミニウム試薬で開環する方法を用いているが、エポキシドの調製に使用するジメチルジオキシランが希薄な溶液でしか得られないために大量合成には適していない。平成17年度は、4'-エチニル-d4Tの大量合成方法を早急に開発することを最重要課題と位置づけて研究を進めた。その結果、不飽和糖チミンヌクレオシドに対して四安息香酸鉛を反応させることにより、糖部4'位にベンゾイルオキシ基を導入できた。このベンゾイルオキシ基を脱離基として用い、エチニルアルミニウム試薬による求核置換反応で4'位でのエチニル化が達成できた。興味あることにこの反応では、エチニル基がフラノース環のα側から導入された望みの立体化学を有する生成物のみが得られた(論文投稿中)。現在までのところ、数十グラムスケールで実施したのみであるが、4'-エチニル-d4Tを大量に供給する基本的な合成経路を確立できたと考えている。平成17年度の研究ではこの他に、4'-エチニル-d4Tの塩基部分を5-メチルシトシンに置き換えた化合物の合成も実施したが、この化合物は全く抗HIV活性を示さなかった。またフラノース環内酸素原子を硫黄原子に置き換えた4'-チオ誘導体の合成にも取り組んだ。合成方法などはここでは省略するが、ラセミ体として得られた4'-チオ-4'エチニル-d4はスタブジンと同程度も活性を示した。光学分割の結果、左旋性のエナンチオマーが活性を示す本体であることを明らかにした(投稿準備中)。
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