一般に、骨髄造血組織は異物による酸化ストレスに脆弱であることが知られるが、酸化ストレスによる造血系破綻の実態やその分子機構は明らかではない。本研究では、骨髄細胞ではストレスタンパクの低応答性が酸化ストレスに対する高感受性の原因となっているという作業仮説を立て、これを検証することを目的とした。血球由来細胞のモデルとして、白血病細胞株HL-60、K562およびTHP-1細胞とBALB/cマウス大腿骨より採取した骨髄細胞を、非血球由来細胞のモデルとしてHepG2およびWI-38細胞を用いた。これらの細胞に対するベンゼン代謝物(ヒドロキノンおよびベンゾキノン)の細胞毒性は、用いたいずれの血球由来細胞でも非血球由来細胞と比べ顕著に認められた。代表的なストレス応答タンパクであるヘムオキシゲナーゼ-1(H0-1)およびNAD(P)H-キノン酸化還元酵素(NQ01)の遺伝子発現を検討したところ、血球由来細胞におけるベンゼン代謝物のこれら遺伝子誘導作用は、非血球由来細胞に比較し極めて限定的に認められた。ストレス応答タンパクの遺伝子誘導において中心的に機能する転写因子Nrf2とそのシスエレメントである抗酸化剤応答配列(ARE)の応答性を検討したところ、血球由来細胞ではNrf2の核移行やARE転写活性化の障害が生じていることが明らかになった。従って、血球由来細胞のベンゼン代謝物に対する高感受性はNrf2-AREの低感受性に基づくストレス応答タンパクの低応答性が原因であることが示唆された。
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