一般に、骨髄造血組織は異物による酸化ストレスに脆弱であることが知られるが、酸化ストレスによる造血系破綻の実態やその分子機構は明らかではない。本研究では、骨髄細胞ではストレスタンパクの低応答性が酸化ストレスに対する高感受性の原因となっているという作業仮説を立て、これを検証することを目的とした。 血球由来細胞のモデルとして数種の白血病細胞株とマウス骨髄細胞を用い、これらの細胞に対するベンゼン代謝物(ヒドロキノンおよびベンゾキノン)の細胞毒性を非血球由来細胞と比較したところ、用いたいずれの血球由来細胞でも非血球由来細胞と比べ顕著に認められた。代表的なストレス応答タンパクであるヘムオキシゲナーゼー1(HO-1)およびNAD(P)H-キノン酸化還元酵素の遺伝子発現を検討したところ、血球由来細胞におけるベンゼン代謝物のこれら遺伝子誘導作用は、非血球由来細胞に比較し極めて限定的に認められた。ストレス応答タンパクの遺伝子誘導において中心的に機能する転写因子Nrf2とそのシスエレメントである抗酸化剤応答配列(ARE)の応答性を検討したところ、血球由来細胞ではNrf2の核移行やARE転写活1生化の障害が生じていることが明らかになった。従って、血球由来細胞のベンゼン代謝物に対する高感受性はNrf2-AREの低感受性に基づくストレス応答タンパクの低応答性が原因であることが示唆された。 次に、抗がん剤の骨髄毒性と酸化ストレスの関連性について検討を進めた。5-フルオロウラシル(5-FU)は骨髄毒性を示す典型的な抗がん剤である。5-FUはin vivoおよびin vitroにおいてマウス骨髄細胞のHO-1を誘導した。また、5-FUはin vitroで骨髄細胞に活性酸素を発生させた。さらに、5-FUのHO-1誘導と骨髄毒性は並行して生じたことから、5-FUによる骨髄毒性には酸化ストレスが関与することが示唆された。
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