1.表皮角化細胞に於けるAhRの機能解析 A)AhRの標的遺伝子について ヒトSlug遺伝子の転写調節領域をPCRで増幅し、Slug-Luciferaseレポーター遺伝子を構築した。AhR活性化に伴ってレポーター活性は増加し、Slug mRNAの増加がRT-PCRで検出された。開始コドンの約800bp上流に位置するXREにAhR/ARNT複合体が結合する事が、ゲルシフトおよびChIPアッセイにより示された。これらより、Slug遺伝子の転写は、AhR/ARNT複合体によって活性化されることが示唆された。 B)創傷治癒過程におけるAhRの発現と機能 AhRノックアウトマウスを用いて、創傷治癒実験をおこなった。経時的に傷の面積を測定する事により、修復にかかる時間を野生型マウスと比較した。完全に修復されるまでの時間に差はみられなかったが、傷の面積が50%になるまでに必要とする時間は、ノックアウトマウスの方が有意に短かった。傷を受けた直後は、皮膚に於ける免疫反応が盛んになる時期であり、このこととAhR活性との関連が示唆される。 2.リガンド非依存性AhR活性化機構の解析 ヒト表皮角化細胞株HaCaTでAhRの細胞内分布を調べると、外来リガンド非存在下で、1)低カルシウム培地中で、2)wound marginで、3)TGF-β処理によるEMT誘導に伴って、AhRは核に局在した。これら3つの過程に、E-cadherinのdown-regulationが共通する。E-cadherinと会合するシグナル分子β-cateninに注目し、AhRとの相互作用について検討した。抗AhR抗体によるHaCaT lysateの免疫沈降物中にβ-cateninは検出されたが、抗β-cateninの免疫沈降物中にAhRは認められなかった。また、2-hybrid assay系においても、これら2つの蛋白の相互作用は認められなかった。AhRとβ-cateninとの機能面での相互作用は、今後の検討課題である。
|