研究概要 |
胆汁鬱滞型肝障害を誘発するlithocholic acid(LCA)をモデル化合物とし、障害を軽減する薬物(pregnenolone-16α-carbonitrile(PCN),probucol)を併用して肝障害の防御機序を解析した。LCAとPCNの併用の実験系ではマイクロアレイにより遺伝子発現変動を解析して肝障害の新規防御機序の予測を行った。雌性マウスにLCA0.6%を混餌で経時的(3日、5日、9日)に処理し、またPCN(100mg/kg,2日、4日)を併用して解析した。LCA群で3日目から経時的な血清alanine aminotransferase(ALT)活性の上昇が認められた。Alkaline phosphatase(ALP)活性は、LCA9日群ではじめで有意な上昇が認められた。PCN併用によりこれらの活性は有意に減少した。内在性代謝物の代謝や輸送に関連する遺伝子に注目して遺伝子発現変動を解析した。LCA9日群でトリグリセリド、遊離脂肪酸の肝内利用のシフトやリン脂質の代謝中間体生成酵素、リン脂質の膜移動に関与する遺伝子の顕著な発現上昇が認められた。脂肪酸についてはエネルギー産生に関わるβ酸化、TCAサイクルに関与する遺伝子の発現低下が認められ、肝/血漿間の脂質移行に関わる遺伝子の変動が認められた。上記の遺伝子発現変動はPCN併用群では認められなかった。LCAの毒性誘発の機序、特に後期に起こるALP活性の増加を伴う、胆道側の障害の発生は脂質の代謝や輸送の異常と密接に関連している可能性が示された。肝内脂質(トリグリセリド、遊離脂肪酸、リン脂質)レベルを測定するとLCA9日群ではコントロール群に比べて有意な減少が、PCN併用群では逆に有意な増加が認められた。脂質の胆汁排泄速度を解析するとLCA9日群の胆汁流量はコントロール群に比べ41%まで,リン脂質の排泄速度は17%まで減少した。Probucolを併用した場合も肝障害が軽減された。Probucolの併用により肝内リン脂質濃度と胆汁中へのリン脂質排泄速度はLCA単独群より大きく増加した。以上のことより肝臓内のリン脂質レベルを上昇させることがLCA誘発肝障害を軽減させることが示唆され、この機序が胆汁鬱滞型肝障害の改善薬に適用出来ることを示した。
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