研究概要 |
細胞性粘菌Dictyostelium discoideumは、最も下等な多細胞生物の1種であり、発生過程の最後に胞子塊と柄より成る子実体を形成する。細胞性粘菌の柄細胞分化誘導因子として、粘菌細胞が産生する低分子脂溶性物資DIF-1が固定されている(Morris et al.,Nature. 1987年)。我々は、このDIF-1に抗腫瘍活性があることを発見し(1995年)、以来、その作用機構の解析を行ってきた。DIF-1は、我々が調べたすべての腫瘍細胞に対して増殖抑制活性を示し、また場合によっては、細胞分化を誘導・促進した。DIF-1の薬理学的ターゲットは不明であったが、近年我々は、DIF-1がphosphodiesterase1(PDE1)の直接の阻害剤であることを発見した(Shimizu et al.,Cancer Res. 1994年)。しかし、DIF-1が示す作用は、DIF-1によるPDE1阻害だけでは説明できない面があり、DIF-1の作用機構の詳細は不明である。 本研究において、我々は以下を進めた。 1)30種類ほどのDIF-1の誘導体を化学合成し、それらの活性を比較し、化学構造-作用相関を解析した。その結果、より強力な抗腫瘍剤の候補物質を複数同定した(Gokan et al.,Biochem. Pharmacol.2005)。 2)DIF-1は、各種白血病細胞の増殖を阻害する。DIF-1の作用機構を解明する目的で、RNAi法を利用して、DIF耐性株(K562白血病細胞)の単離を試みている。 3)我々はDIF-1の研究を進める過程で、偶然にも亜鉛がCalmodulin依存性PhophataseであるCalcineurin活性の阻害剤であることを発見したが(Takahashi et al.,2003年)、今回さらに、亜鉛がJurkat T細胞においてMitogen刺激によるIL-2産生を阻害することを見い出した(Tanaka et al.,BBRC. 2005年)。 4)4つの特許を出願した。
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