臓器移植時に汎用されるカルシニューリン阻害剤であるタクロリムスとシクロスポリンの薬効特性について比較するため、生体肝移植患者において薬物血中濃度と同時に末梢血単核球細胞中のカルシニューリン活性を測定した。非線形混合効果モデルプログラムNONMEMを用いた母集団薬効解析を行った結果、シクロスポリンの場合には、ピーク血中濃度付近の約700ng/mL以上でカルシニューリン活性はほぼ完全に抑制される一方、タクロリムスの場合には、治療域以上の血中濃度(>20ng/mL)においても部分的にしか阻害されないなど、カルシニューリン阻害特性に両薬剤で相違のあることが判明した。また、カルシニューリン阻害特性には大きな個体差があることも判明したため、薬物血中濃度モニタリングに加えて、薬効をモニタリングすることの有用性が示唆された。続いて、タクロリムス体内動態の変動要因を解明するため、生体肝移植患者を対象に小腸と肝臓における薬物排出トランスポータP-糖蛋白質(MDR1)や薬物代謝酵素(CYP3A4、CYP3A5)の影響について母集団薬物動態解析を行った。その結果、術直後の経口クリアランスにMDR1遺伝子の小腸におけるmRNA発現量が、また術後経過に伴う経口クリアランスの回復に移植肝に発現するCYP3A5*3アレルが有意に影響を及ぼすことが明らかとなった。以上、本研究成果に基づき、個々の患者におけるカルシニューリン活性の測定と遺伝子情報を含む体内動態変動因子を考慮することによって、より精緻なタクロリムスの個別化治療が可能になると考える
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