研究概要 |
1)ブタ腎近位尿細管由来細胞(LLC-PK_1)に高濃度シスプラチンを一過性に曝露(500μM,1時間)すると細胞障害(WST-8法)が発現したが,アポトーシス陽性細胞(Annexin V染色,TUNEL染色)は見られなかったことから,ネクローシスによる障害と考えられた。この細胞障害は,非水解性cyclic AMP(cAMP)誘導体のDBcAMP,フォルスコリン,PGI_2誘導体のベラプロストによって抑制された。DBcAMPによる細胞保護作用はA-キナーゼ阻害剤H89の前処置により消失したことから,A-キナーゼ活性化を介した作用であると考えられた。 2)シスプラチン曝露により,脂質過酸化亢進(DPPP酸化を指標),superoxide dismutase(SOD)活性の低下とともに細胞内TNF-α増加が見られた。これらの反応は抗酸化剤により抑制された。一方,p38 MAPキナーゼ阻害剤はシスプラチンによるTNF-α含量の増加をほぼ完全に抑制し,さらに細胞障害も抑制した。なお,シスプラチン曝露によりp38 MAPキナーゼのリン酸化体が増加した。 3)フォルスコリンによる細胞のcAMP産生増加は,シスプラチン誘発SOD活性低下をほぼ完全に抑制した。さらに,脂質過酸化の低下やTNF-α増加もほとんど見られなくなった。また,細胞内cAMP産生増加はシスプラチン曝露によるリン酸化p38 MAPキナーゼ免疫活性の増加を抑制した。以上,本研究において,シスプラチンによる腎尿細管細胞障害は,酸化的ストレスによるp38 MAPキナーゼ活性化,TNF-α産生の増加によって引き起こされること,さらに,細胞内cAMP産生の増加はSOD活性の低下を回復することにより,活性酸素種の消去,p38 MAPキナーゼを介したTNF-α産生の亢進を抑制し,細胞保護作用を示すことを明らかにした。
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