研究概要 |
ブタ腎近位尿細管由来細胞(LLC-PK_1)を用いてシスプラチン(CDDP)腎障害モデルを作成した。細胞を高濃度CDDPに一過性曝露するとネクローシスを主体とする細胞障害が発現し、superoxide dismutase活性低下とともに脂質過酸化亢進(DPPP酸化を指標)が見られた。さらに、p38MAPKリン酸化およびTNF-α産生亢進が見られ、ともに抗酸化剤により抑制された。また、TNF-α産生亢進はp38 MAPK阻害剤により抑制された。一方、cAMP誘導体のDBcAMPやPGI_2誘導体のベラプロスト(BP)はCDDPによる脂質過酸化、p38 MAPKリン酸化およびTNF-α産生亢進を抑制し、細胞保護作用を示した。一方、ラットにCDDP (7.5mg/kg)を投与すると血清中クレアチニンおよび尿素窒素が増加し、腎組織において尿細管細胞壊死、タンパク円柱およびTNF-α濃度増加が見られた。これらの血清学的ならびに病理学的変化はBP(0.3mg/kg)投与により有意に抑制された。 ところで、CDDP投与ラットの腎組織において、TUNEL染色陽性細胞が確認されたことから、CDDP腎障害にはネクローシスのみならずアポトーシスも関与すると考えられた。そこで、ネクローシスおよびアポトーシスが関与するin vitro CDDP腎障害モデルを作成し、アポトーシスの発現機序について検討した。 LLC-PK_1細胞に200μM CDDPを1時間暴露後、20μMの濃度で12-24時間暴露すると、ネクローシスとともにアポトーシスが発現した。前者は抗酸化剤により抑制され、酸化的ストレスによる機序が、後者はcaspase-2、-8および-3の阻害剤により抑制されたことから、caspases活性化に基づく機序が考えられた。さらに、シスプラチン暴露により、caspase-8,-9,-2 -3の活性化が見られ、caspase-8および-9活性化はcaspase-2阻害剤により抑制されること、さらに、p53阻害剤のpifithrin-αはいずれのcaspases活性化も抑制し、アポトーシスを軽減することが明らかとなった。 以上の結果から、CDDP腎障害には、活性酸素/p38MAPキナーゼ活性化/TNF-α産生亢進に基づくネクローシス、ならびにp53活性化/caspase-2活性化による一連のcaspases活性化によるアポトーシスの両者が関与すると考えられた。
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