研究概要 |
平成18年度は,昨年度の研究成果を踏まえ,統合失調症のモデル動物であるケタミン処置ラットにおける血漿中生体分子の変動解析ならびにヒト統合失調症患者でのそれらの分子変動について検討した。 はじめに,NMDA受容体のアンタゴニストであるキヌレン酸(KYNA)の前駆物質であるキヌレニン(KYN)について,ラット血漿中KYN濃度の高感度定量法の開発を行った。その結果,本法による検出感度は,従来報告されていた分析法に比べて約10倍高く,これにより,ラット血漿10μL中のKYN定量が可能となった。ケタミン処置ラットの血漿中KYN濃度を,コントロールラットと比較した結果,有意な差は見られなかった。平成17年度において,ケタミン処置ラットでは,血漿中KYNA濃度が上昇していることを見出している。そのため,ケタミン処置ラットでは,KYNからKYNAを生成するキヌレニンアミノトランスフェラーゼ(KAT)の活性が亢進していることが示唆された。 また,平成18年度は,ラット脳ホモジネート中のKYNA定量法を開発し,ラット大脳,小脳,脳幹中KYNA定量に成功した。KYNA濃度はラット小脳で最も高く,大脳では低かった。この傾向ならびに各脳組織でのKYNA濃度は,既報の結果とほぼ同様であった。 次いで,ヒト統合失調症患者(患者群17名,健常者群17名)の血清中KYNAならびにアミノ酸の定量も行った。その結果,KYNA濃度は有意差が見られなかったが,グルタミン酸ならびにセリン濃度が,男性患者で有意に上昇しており,一方,プロリン濃度が女性患者で有意に上昇していた。このように統合失調症患者において,血清中アミノ酸濃度の変動に性差が見られた。
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