研究概要 |
昨年度までの検討により,ラットにおける統合失調症の発症にトリプトファン代謝物であるキヌレン酸(NMDA受容体アンタゴニストとして機能する)の濃度上昇が大きく関係していることが示唆されてきた。そこで,本年度は,ラットを用いてin vivoにおけるキヌレン酸の生成に関する実験を中心に行い,以下の結果を得た。 1.ラットにキヌレン酸の前駆物質であるL-キヌレニン,その光学異性体であるD-キヌレニンを腹腔内投与し,投与後の血漿中キヌレン酸の濃度推移を,光学異性体間で比較した。その結果,D-キヌレニン投与時において顕著なキヌレン酸濃度の上昇を確認した。一方,L-キヌレニン投与時においては,血漿中キヌレン酸の上昇はほとんど認められなかった。このように,D-キヌレニン投与によるキヌレン酸生成を初めて見出した。また,D-キヌレニンからキヌレン酸への代謝に,統合失調症の関連遺伝子産物であるD-アミノ酸酸化酵素が関与していることをその特異的阻害剤の併用投与実験により確認した。 2.ラット脳マイクロダイアリシス実験を行い,脳内アミノ酸であるN-acetyl-L-aspartate(NAA)をラットに脳内投与した結果,キヌレン酸の有意な上昇が観察された。同時に脳内神経伝達分子であるグルタミン酸やグリシンの放出抑制が見出され,脳内NAA濃度がキヌレン酸や神経伝達分子の脳内動態に影響を与える可能性が示唆された。 3.ラットにD-キヌレニンを静注し,尿中のカテコールアミンやセロトニンの変動を調べた。その結果,D-キヌレニン投与直後に尿中セロトニンの一過性の上昇が見られた。
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