モデル薬物としてアルプラゾラム(ALP)、トリアゾラム(TRZ)、ミダゾラム(MDZ)、カルバマゼピン(CBZ)、テストステロン(TST)、プロゲステロン(PRG)を用いた。これらの薬物はいずれも、主にCYP3A4による代謝でヒトの体内から消失する薬物であり、P-糖蛋白(P-gp)の基質ではないとされる薬物である。 市販されているヒト小腸ミクロソームを用いた代謝実験を行い、ミカエリス定数(Km)および最大代謝速度(Vmax)を求め、Vmax/Km値にヒトの十二指腸と空腸のミクロソーム含量を乗じることで、ヒト小腸上皮における代謝クリアランス(CLm)値を算出した。 CYP3A4によって複数の代謝物を生成する場合は、各代謝経路の和としてCLm値を見積もった。次に、ヒト小腸上皮細胞のモデルとして汎用されるCaco-2細胞を用い、Transwell上に単層培養された細胞から基底膜側への薬物排出速度を測定した。排出の初速度を細胞内薬物濃度で除すことにより、Caco-2細胞から基底膜側への排出クリアランスを算出し、さらにTranswellの表面積を、ヒト十二指腸と空腸の絨毛構造を考慮した表面積へ補正することにより、ヒト小腸上皮から血液側への排出クリアランス(CLeff)を見積もった。 得られたCLmおよびCLeff値を用い、Fg=CLeff/(CLeff+CLm)に従って各薬物のFg値を算出したところ、各薬物のFgの予測値は、ALP(0.89)、TRZ(0.57)、MDZ(0.030)、CBZ(0.96)、TST(0.095)、PRG(0.030)となった。ALP、TRZ、CBZについてはヒトへの投与試験から算出されるFg値に近い値となった。また、TSTおよびPRGについては、初回通過効果が大きく経口投与されないことと一致する結果が得られた。一方、MDZについては、自身がmechanism-based inhibitorとして作用する可能性が示されたため、今後はこのことを考慮したモデルを構築して予測性の向上を図る予定である。
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