研究概要 |
本年度は、ヒト小腸をコンパートメントに分割して小腸内の薬物の移動と吸収を考慮したモデル(CAT(Compartmental absorption and transit)モデル;L.X.Yu et al.,Adv, Drug Deliv, Rev,19:359-376,1996)を拡張して、代謝過程を組み込んだITAM(Intestinal Transit, Absorption and Metabolism)モデルを確立した。消化管を7つのセグメントに分割し、各セグメントの消化管腔から小腸上皮細胞への取り込み、上皮細胞内での代謝、上皮細胞から血液側への移行の諸過程をモデル上で再現した。小腸上皮細胞への取り込み、上皮細胞内での移行、上皮細胞から血液側への移行に関する各パラメータ値は、Caco-2細胞を用いたin vitro透過実験から算出した。上皮細胞内での代謝に関する各パラメータ値は、ヒト小腸ミクロソームを用いた代謝実験より算出し、文献値(Paine M.F.etal., JpET 283:1552-1562,1997)に従って、小腸のセグメントごとにミクロソーム含量を変えることにより、小腸各部における代謝クリアランスの違いを表現した。得られた微分方程式を数値的に解くことによって、消化管からの吸収過程における小腸アベイラビリティ(Fg)を算出した。 モデル薬物として、CYP3A4の基質であるトリアゾラム、アルプラゾラム、ミダゾラム、カルバマゼピンを用いた。ミダゾラム以外の薬物については、小腸アベイラビリティ(Fg)の計算値は、ヒト投与試験から得られるFgの値(実測値)に近い値となった。一方、ミダゾラムについては、mechanism-based inhibitorとしての挙動を組み込むと、Fgの計算値がヒトにおける実測値に近い値となった。本研究より、Caco-2細胞およびヒト小腸ミクロソームを用いたin vitro実験から得られたデータをITAMモデルに適用することで、CYP3A4基質の小腸アベイラビリティを定量的に予測可能であることが示された。
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