本研究では、乳がん治療薬タモキシフェン(TAM)の活性代謝物である4-HO-TAMがN-グルクロン酸抱合反応を受けるか否かを明らかにし、反応に関与するUGT分子種を決定する。そして、生成した4-HO-TAM N-グルクロニドが果たしてERに対して結合性を有するか否かを明らかにすることを第一の目的とした。さらに、TAMおよび4-HO-TAMのN-グルクロン酸抱合反応が、腫瘍のTAM耐性化と関連があるか否かを明らかにすることを第二の目的とした。その結果、以下のような成果をあげることができた。1)UGTの補酵素UDPGA存在下、ヒト肝ミクロソーム画分によりtrans-およびcis-4-HO-TAMからそれぞれのN-グルクロニドが生成し、HPLC-TOF-MSにより合成標品のN-グルクロニドと同定された。2)12種類のヒト発現UGT分子種を用いて4-HO-TAMに対するN-グルクロン酸抱合活性を検討したところ、UGT1A4のみが活性を示した。酵素反応の動力学的解析を行った結果、ヒト肝ミクロソーム画分中でこの反応に関与しているUGT分子種はUGT1A4であることが強く示唆された。3)エストロゲン感受性のヒト乳がん由来のMCF-7細胞にUGT1A4を安定に発現させた細胞株MCF-7を樹立した。このMCF-7細胞を用いて、細胞増殖実験を行った結果、wid type MCF-7細胞ではTAMおよびtrans-4-HO-TAMの増殖抑制効果により、細胞増殖が抑制されたのに対して、UGT1A4安定発現細胞では、wild type細胞と比較して細胞増殖が抑制されなかった。これより、UGT1A4安定発現MCF-7細胞は、TAMおよびtrans-4-HO-TAMに対して耐性化していることが明らかになった。さらに、UGT1A4の阻害剤であるTFPにより、UGT1A4安定発現細胞のTAMおよびtrans-4-HO-TAMに対する耐性能が失われることが明らかになった。したがって、MCF-7細胞中にUGT1A4を発現させることによって、TAMおよびtrans-4-HO-TAMに対する感受性は低下することが明らかになった。これらの結果から、UGT1A4によるグルクロン酸抱合はTAM耐性化の原因となりうることが明らかとなり、TAM治療の際に薬剤の選択あるいは耐性化の防止などの標的となりうることが示唆された。
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