1 アルツハイマー病等の神経変性疾患ではグリア細胞の誘導・増加が報告され、産生するサイトカイン等による炎症症状が疾患の初期過程に重要な役割を果たしていることが示唆されている。本研究では、18日日のラット胎児から単離・培養した大脳皮質グリア細胞(ミクログリアとアストロサイト)及び海馬神経細胞を用いて、GLP-1の作用と細胞内作用機序について検討した。GLP-1受容体は神経細胞とグリア細胞の両方に存在し、GLP-1産生は神経細胞以外では活性型ミクログリアで行われること、GLP-1はミクログリアを静止型から活性型に移行させることを見出した。これより、GLP-1がミクログリアに作用すると活性型ミクログリアが増えて内在性GLP-1産生が促進され、放出されたGLP-1は隣接する神経細胞やアストログリアにも作用することが考えられる。 2 GLP-1受容体発現の多いアストログリアを用いて、グリア細胞が産生・放出する炎症性サイトカインの1つであるIL-1β産生に対する作用を検討した。炎症症状を実験的に誘発させる試薬として用いられているlipopolysaccharide(LPS)で培養アストロサイトを処理するとIL-1βのmRNA発現が誘導され、GLP-1はこれを抑制した。このGLP-1の作用は細胞内cAMP濃度上昇とCREBリン酸化促進による遺伝子発現抑制であることが示唆された。 3 LPSを投与したマウスは学習記憶障害を示し、GLP-1を脳室内投与するとこの障害が改善された。このGLP-1の改善作用にはcAMP産生が関与し、上述のグリア細胞を介した作用の存在が示唆された。 4 以上より、外来性あるいは内在性GLP-1がミクログリアを活性化し、その結果大量に産生・放出された内在性GLP-1が炎症性サイトカイン産生を抑制して神経変性疾患の初期炎症過程を抑制あるいは改善させる可能性が示唆された。
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