知覚終末のグリア細胞は分岐する突起で結合し、軸索終末間を連絡する網をなす。一般に、受容体を介した細胞内Ca^<2+>濃度の一過性上昇は、細胞間を波として伝わり、協調的な細胞活動を惹き起こすことが知られ、そこには、生理活性物質アデノシン5'-三リン酸(ATP)の細胞外拡散、または、細胞内信号物質のギャップ結合を介した移動が関与する。両機構の終末グリア網信号系への関与を検討するため、ラット洞毛の動き受容器、槍型終末を膜片標本として分離し、マイクロマニピュレーターに取り付けた微小ガラス針でグリア網局所に接触刺激を与えときにみられるCa信号の生成・伝播過程を、共焦点顕微鏡で解析した。ガラス針で一つの槍型終末に軽く触れた直後、その終末を包むグリア突起のCa^<2+>濃度が単峰性に上昇し、続いて、刺激点付近の2-5本の槍型終末で、伴行するグリア突起のCa^<2+>濃度が、遅れて上昇するのが観察された。この2次性Ca信号には、各グリア突起の決まった場所から独自に生成するものと、突起の近位部から外来性に入ってくるものとが区別され、前者は、刺激後1-5秒の間に刺激点から25μm以内の槍型終末に次々と波及し、応答細胞は必ずしも機械刺激を受けた細胞と突起のつながりをもたなかった。一方、後者の信号は、刺激点からの距離に関わりなく、機械刺激された細胞の突起で観察され、その突起と直接結合する他細胞の突起に伝播することもあった。この場合の応答潜時は、刺激局所から細胞体を経てその突起に至るまでの細胞質の道程に依存して長くなり、ときに数十秒に達した。終末グリアのATP受容体P2Y_2の遮断剤suraminは、前者のタイプの信号伝播だけを阻害した。槍型終末グリア網のCa信号は、ATPの細胞外拡散に基づく比較的早い伝播と細胞内信号物質の移動による遅い伝播の二重様式を示し、両者はそれぞれ、異なる細胞活動の調節に役立つと推測される。
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