「脂質ラフト(lipid rafts)」と総称されるコレステロールや糖スフィンゴ脂質に富む生体膜上の微小領域は、細胞膜や細胞内膜系で代謝や情報伝達に関わる様々な分子の足場として重要な役割を果たしている。本研究では、代表的な内分泌組織である下垂体における脂質ラフト様構造の分布・局在とその生理的役割について解析を進めている。 平成17年度には、内分泌細胞の脂質ラフト様構造に集積し分泌蛋白の選別輸送に関与する可能性のあるカルボキシペプチダーゼE(CPE)とセクレトグラニンIII(SgIII)の細胞内局在を電顕免疫組織化学法と生化学的な解析法で検討した。その結果、コレステロールに富む分泌顆粒膜に集積したCPEとSgIIIが共同して分泌蛋白の選別輸送課程に関与している可能性を示すとともに、どちらか一方が欠損した場合には他方がその機能を補うことを示唆する所見を得た(雑誌論文1)。また、この研究の過程で電顕レベルの免疫組織化学用の標本作製法を改良し、抗原性と微細構造の両方を向上させるプロトコールを開発した(雑誌論文2)。さらに、このような解析と並行して、平成17年度には、コレステロールと複合体を形成するfilipinで下垂体前葉組織を標識し脂質ラフト様構造の分布および細胞内局在を検討し、分泌顆粒膜が普遍的にfilipinでよく標識されることを観察した。また、同様にビオチン標識コレラトキシンBサブユニット(CTxB)で標識することによって代表的な糖スフィンゴ脂質であるGM1ガングリオシドの分布・局在も併せて検討したところ、CTxBで標識される部位は下垂体前葉では成長ホルモン産生細胞の分泌顆粒膜に限局していることを発見した。そこで、現在、この細胞に対する特異的な分泌刺激因子であるGHRHを用いて、分泌刺激後の同細胞における脂質ラフト様構造の細胞内局在の経時的変化を追跡している。
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