雄と雌のマウス顎下腺から抽出したmRNAを用い、PCRを用いた遺伝子サブトラクション法により、雄または雌マウスの顎下腺に優位に発現する顎下腺の遺伝子を同定した。そのうち、雌で優位に発現する新規の遺伝子をひとつ見いだした。この遺伝子によりコードされる蛋白質は、N末端のシグナル配列と思われる疎水性アミノ酸を含む165アミノ酸からなり、ラット顎下腺に多く含まれるグルタミン/グルタミン酸の豊富な蛋白質(GRP)と相同性があった。この蛋白質の合成ペプチドに対するラット抗体を作成した。Northernブロット解析において、この蛋白質のmRNAはマウス全身の主な器官のうち、顎下腺と涙腺のみに発現し、約1.2kbの単独サイズを示した。顎下腺では雄より雌で36倍高く、逆に涙腺では雌より雄で28倍高い発現が見られた。精巣切除マウスや雌マウスにテストステロンを投与する実験により、mRNA発現は顎下腺ではアンドロゲンにより顕薯に抑制され、逆に涙腺ではアンドロゲンにより顕著に促進されることがわかったため、この蛋白質をSubmandibular androgen-repressed protein (SMAIRP)と名づけた。In situハイブリダイゼーションおよび免疫組織化学において、SMARPのmRNAと蛋白質は雌の顎下腺および雄の涙腺の腺房細胞に局在し、導管細胞には認められなかった。異なる器官においてアンドロゲンにより反対の発現制御を受ける遺伝子産物は極めて稀であり、アンドロゲンによる遺伝子発現制御機構の解明に糸口を与えると思われた。
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