研究概要 |
骨髄間質細胞は患者本人からの採取が可能であり、骨髄バンクの利用も展望できることから再生医療の細胞ソースとして最適である。我々はヒトおよびラット骨髄間質細胞にNotch遺伝子導入とサイトカイン刺激を組み合わせることによって、生体で機能しうる神経幹細胞および骨格筋幹細胞を、他の細胞要素を含む事無く極めて高い効率で誘導する方法を見出し(Dezawa et al., J.Clin.Invest., 2004;Dezawa et al., Science,2005)、自己細胞移植治療法の開発を目指して研究を進めている。17年度の成果は以下の通りである。 骨髄間質細胞にNotch遺伝子を導入することによって神経幹細胞様に分化誘導され、nestin,3-PGDH,GLASTなどのマーカーが発現すること、さらにneuro sphereを形成することも確認した。これらの細胞にサイトカイン刺激を与えると、96%の細胞が活動電位を記録する機能的なpost-mitotic neuronになった。またこれらの細胞群にはグリア細胞が含まれておらず、神経細胞だけで構成されていることが分かった。誘導された神経細胞をラットの脳梗塞モデルに移植すると、海馬への生着が多数みられ、特に記憶学習において有効な改善が認められた。また誘導した神経細胞にGDNFを投与するとドーパミン作動性ニューロンに分化し、これらの細胞をパーキンソンモデルラットへ移植すると顕著な症状改善を認めた。移植後の脳内でのドーパミン産生もHPLCで確認している。誘導メカニズムとしてNotch蛋白の部分欠損変異を導入し調べた結果、ankyrin repeatsドメインに神経誘導活性があることがわかった。 神経誘導とは逆にサイトカイン刺激を行った後にNotchを導入するとPax7陽性の筋衛星細胞(骨格筋幹細胞)と筋芽細胞が誘導される。この細胞を分化培地で培養すると筋芽細胞の融合が促進され、自発的な収縮能を持つ多核の骨格筋細胞が得られる。さらに、必ず一部に幹細胞である筋衛星細胞が残り、分裂と分化誘導を繰り返すことが可能である。最終産物では骨格筋のマーカーであるMyoD,myogenin,MRF4、筋収縮蛋白などの発現が確認された。誘導された細胞を筋ジストロフィーのモデルmdx-nude mouseの前脛骨筋に移植すると生着し、dystrophinの発現を認めた。さらに生体に生着した筋衛星細胞は、繰り返される筋変性に対して継続して筋再生に寄与することが確認された。
|