精子頭部に位置する先体内部タンパク質が受精の場でどのように振る舞って機能を発揮するのか、その局在(挙動)と役割を明らかにすることが本研究の目的である。そのために、先体マトリックス特異蛋白分子MC41に対するモノクローナル抗体と体外および体内受精実験系とを用いて主に形態学的解析を行った。(1)先体分子の挙動解析:ハムスターの体外受精実験系に蛍光標識法や金コロイド免疫電顕法を応用して調べた結果、MC41は先体反応前の精子先体外膜直下の先体マトリックス皮質領域に限局して存在した。媒精5〜10分後の精子・卵子試料では、MC41が先体反応後のハイブリット小胞遺残体(先体マトリックスを主構成要素とする先体遺残体acrosomal ghost)と隣接した卵子透明帯表面、および両者の接触部に局在することを電顕レベルで証明した。(2)先体分子の役割解析:MC41抗体存在下で体外受精実験を行った結果、媒精5〜10分後、透明帯に接着した精子数は対照群に比べ有意差を認めなかった。しかしその後、接着した精子にピペッティングによる物理的操作を加えると、透明帯に結合した精子数はMC41抗体存在下で激減、結合の維持が阻害された。以上の結果から、先体特異分子MC41は先体内部マトリックスに区画化されて存在し、先体反応後の遺残体を介して、精子・卵子透明帯結合の維持に深く関与していると考えられた。(論文準備中)なお、MC41抗体を卵管内に微小注入して体内受精実験を試みた結果、顕著な受精阻害効果は認められなかった。
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