本年度は選択的細胞除去の系の構築を第一目標として研究を進めてきた。はじめに細胞死をコントロールするBcl-2分子ファミリーの中で細胞死を促進させる分子として知られるBaxの発現系を検討した。Baxは通常不活型で細胞死の刺激がないと細胞死を引き起こさないため、Baxのgain-of-function変異体を用いることで健常細胞にアポトーシスを誘導することにした。Baxのgain-of-function変異体をテトラサイクリン反応配列に連結してドキシサイクリン添加とrtTA発現によってBaxのgain-of-function変異体発現が誘導されるようにし、また一方でrtTAは運動ニューロン特異的エンハンサーであるHB9の制御を受けるようにすることによって、脊髄運動ニューロンでドキシサイクリンを添加した場合にのみ遺伝子が発現するようにデザインしたのである。その結果、細胞死を促進する分子の一つとして知られるBaxを用いた細胞死を誘導する系を構築することに成功すると共に、この方法を生かすことによってBaxのニューロン死における生体での機能解析を提示する論文を発表することができた。 またBax以外の細胞死誘導分子としてはRho及びRho-kinaseのdominant-negative変異体導入を検討した。これらの変異体を導入することによって様々な場所(脊髄および脳)で神経上皮細胞の細胞死を引き起こすことを見出した(未発表)。この詳細は現在研究を進めている。 遺伝子発現のコントロールに関してはHB9エンハンサーの他にIslet-1エンハンサーも検討を進めている。またこれらのエンハンサーによってどのような運動ニューロンが除去されうるのかの検討を進めている。
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