本研究課題では脊髄運動ニューロン数が発生過程でどのようにコントロールされているのか(産生と細胞死による除去)を明らかにする目的で、実験的に運動ニューロンを選択的に除去する系の構築を試みた。細胞死を促進する分子として知られるBaxのgain-of-function変異体をテトラサイクリン反応配列に連結してドキシサイクリン添加とrtTA発現によってBaxのgain-of-function変異体発現が誘導されるようにし、また一方でrtTAは運動ニューロン特異的エンハンサーであるHB9の制御を受けるようにすることによって、脊髄運動ニューロンでドキシサイクリンを添加した場合にのみ遺伝子が発現するようにデザインした。その結果、頚髄において本来細胞死を起こさず生き残るはずの運動ニューロンで、Baxのgain-of-function変異体が発現することによって細胞死を引き起こすことに成功した。また野生型Baxは生体エレクトロポレーション法で遺伝子導入後時間をおいてから(24時間程度)ドキシサイクリンによって発現誘導をおこなっても細胞死を惹起しないが、通常の発現ベクターを用いて生体エレクトロポレーション法で導入した場合は数時間後から脊髄全般で細胞死を引き起こすことが明らかになった。これらの手法を組み合わせることによって空間的・時間的に運動ニューロンの除去を行うことが実験的に可能になると予想され、本研究課題の成果を基に運動ニューロン数が発生過程でどのようにコントロールされているのかそのメカニズムの解析が一層進展することが期待される。
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