研究概要 |
Mash1はbHLH型転写調節因子であり、自律神経系の分化に関与している。Mash1ホモ変異型(-/-)のマウスでは交感神経節が欠損し、嗅上皮の神経細胞や肺神経内分泌細胞も形成されない。また出生直後に死亡する。甲状腺C細胞はカルシトニン(CT)を分泌する内分泌細胞である。C細胞の細胞分化に関する分子機構を解析するため、Mash1-/-マウス甲状腺を野生型マウスと比較して調べた。出生直後の野生型マウスC細胞は神経細胞様の特徴を有し、CTの他にCGRP, PGP9.5,TuJ1などの神経マーカーを呈示した。また転写調節因子NeuroDを発現した。一方Mash1-/-マウスではこれらC細胞マーカーは発現せず、C細胞は完全に欠損した。電子顕微鏡による観察でも、一日令野生型マウスでは特徴的な分泌顆粒を含有するC細胞を確認できたが、Mash1-/-マウスではC細胞は存在しなかった。第4咽頭嚢由来の鰓後体が甲状腺に侵入し、C細胞へと分化することはよく知られているので、C細胞欠損原因を解明するため、鯛後体の発生を調べた。胎生11.5日令(E11.5)で、野生型と同様にMash1-/-マウスで第4咽頭嚢から鰓後体が生じた。各種の神経堤細胞マーカーを用いて調べたが、どの遺伝子型マウスにおいても鰓後体内に神経堤細胞が侵入することはなかった。野生型では鰓後体はE12.5でMash1を発現し、E13.5で甲状腺内に侵入、E14.5からC細胞として甲状腺実質内に分散し始めた。この時Mash1の発現は弱くなり、変わって神経マーカーであるCGRP、somatostatin, TuJ1がC細胞に発現し始めた。胎生後期になってNeuroD、続いてCTが発現した。一方Mash1-/-マウス鰓後体はMash1を発現せず、甲状腺内に侵入後多くのapoptosisを示し退化した。第4咽頭嚢、鰓後体および甲状腺C細胞には上皮細胞マーカーであるE-Cadherinが強く発現した。C細胞内でE-CadherinはCTと共存した。このような結果からC細胞は内胚葉上皮由来であり、またMash1はC細胞の細胞分化に関わる重要な遺伝子で、C細胞に神経細胞様の特徴を与えることが分かった。
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