本研究では糖尿病やメタボリックシンドロームの病態を形成する因子である糖とインスリンに着目し、腎血流調節作用と高血圧発症機序を明らかにすることを目的とした。まずショ糖負荷Dah1食塩感受性高血圧ラットの血圧上昇メカニズムを検討した。Dah1食塩感受性高血圧(Dah1S)ラット、Dah1食塩非感受性高血圧(Dah1R)ラットおよびSprague-Dawley(SD)ラットに10%ショ糖を飲水ボトルで2週間投与したところ、Dah1SラットとDah1Rラットでは投与1週より有意な血圧上昇がみられたが、SDラットでは2週にわたり有意な血圧上昇はみられなかった。尿中の過酸化水素の排泄を検討し酸化ストレスの指標にしたところ、Dah1SラットとDah1Rラットではショ糖投与後有意な尿中過酸化水素の増加があったが、SDラットではその増加はごく軽度に留まり、ショ糖負荷による高血圧発症に酸化ストレスの関与が示唆された。また、Dah1Sラットでの血圧上昇と尿中過酸化水素排泄の増加は腎の近位尿細管に発現するNa-glucose cotransporter (SGLT)の阻害薬phlorizinの投与により抑制された。以上のことから、ショ糖負荷による血糖上昇はSGLTを介して腎酸化ストレスを亢進し、腎髄質血流を減少、ナトリウムの再吸収を亢進し高血圧発症に関与していることが示唆された。 次にSGLTの腎髄質血流に対する役割を検討するために麻酔下ラットの腎髄質に光ファイバーを挿入し、腎局所血流をレーザードップラー法で検討した。その席果SGLT阻害薬であるphlorizinの腎髄質間質への前投与は、50%グルコース静脈内投与による髄質血流減少を抑制した。したがって、血糖の上昇は尿細管でのグルコース再吸収増加とともに腎髄質局所の酸化ストレスを増大し、腎髄質血流が減少するため血圧を上昇させることが示唆された。
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