研究概要 |
黒質網様部(SNr)は運動制御を司る大脳基底核の出力核で抑制性細胞から構成されるが、申請者らはSNr細胞が低酸素感知機能を有すること(Yamada et al.,2001,2002)、さらにSNr細胞の70%近くが外液のグルコース濃度を10mMからわずかに低下させると発火頻度上昇を示すグルコース感受性(glucose-sensitive)を示すことを見出した(Yuan, Yamada et al.,2004)。従来このような性質は視床下部摂食中枢の機能と考えられていた。そこで本年度、SNrニューロンのglucose感知機能を更に確認するため急性脳sliceを用いていくつかの薬理実験をおこなった。その結果、SNrのglucose-sensitive neuronに摂食中枢に類似したオレキシン応答を示すものが存在した。すなわちorexin A(100-300nM)に対しては明瞭な活動変化を認めなかったが(n=4)、orexin Bに対しては300nMまたは1μMでSNrニューロンの3/6および3/10がそれぞれ可逆的発火上昇を示した。またSNrにはグルコース濃度を10から5mMに低下させることにより発火活動が可逆的に低下するニューロン(glucose-responsive neuron:満腹中枢タイプ)も存在する。興味深いことに、これらのニューロン活動は視床下部満腹中枢ニューロンと同様、インスリン(50nM)投与により可逆的に減少した。以上の結果は、SNrが従来考えられていたよりも多様な性質を示すニューロンから成る集合体であることを示唆すると共に、SNr細胞が酸素やグルコース濃度の増減を感知し、その発火頻度を変化させることにより脳代謝状態のセンサーとしての役割を果たして可能性を示唆する。グルコース低下による発火上昇の機序には、摂食中枢ではポンプ活動の抑制が示唆されている。実際SNr活動はouabain(5μM)により全例で上昇したが(n=6)、今後はより詳細な機序の解明を目指す。興味深いことに、SNrニューロンには一定条件下でドーパミン応答を示すものが存在することを代表者らは見出している。そこで来年度は、グルコース応答とドーパミンとの関係を調べ、更にin vivoでSNrのグルコース感受性を検証していくことで生理的意味を明らかにし報告したい。
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