研究概要 |
中脳黒質網様部(SNr)のGABA作動性神経細胞は、脳内で最も高い自発発火活動を示す。このような活発な活動の維持には酸素やブドウ糖の不断の供給が不可欠であるが、実際、本細胞は細胞外の酸素低下に際してATP感受性カリウムチャネルの開口を介して脳の異常興奮を抑える低酸素センサーとしての役目を果たすことを以前に示した。またSNr細胞は脳スライス実験では、細胞外グルコース濃度のわずかな低下時に、ATP感受性カリウムチャネル非依存性の機序により自発活動を上昇させる「グルコース感受性(glucose sensitivity)」を示すことを見出したが、本現象がSNr細胞がもつ内在的性質によるものか、シナプス伝達など細胞間相互作用を経由して他所から伝えられたものかは明らかでない。そこで急性単離したSNr細胞がグルコース感受性をもつかを穿孔パッチクランプ法により検討した(Yamada et al.,第84回日本生理学会)。 (1)急性単離SNr GABA作動性ニューロンの大部分(10/14;~70%)は、外液のグルコース濃度を10mMから4-8mMの範囲まで低下させた際に濃度依存的に有意な脱分極を示した(5.7±2.4mV, n=10,31℃,4mM Glcの揚合)。このことはSNrニューロンの静止膜電位が外液のグルコース濃度により制御され得ることを示す。 (2)脳スライスの場合と同様、急性単離したSNr GABA作動性ニューロンは、外液のグルコース濃度を低下させた際に、自発発火頻度の上昇、上昇の後下降(二相性変化)、無変化、減少の4種類の応答を示した。以上の結果は、SNrのグルコース感受性へのSNr細胞自体の内在的性質の寄与が重要であることを示す。 (3)グルコース低下時に、急性単離SNr GABA作動性ニューロンの一部は急激な発火頻度の上昇を示したが、わずかな例外を除きスライスにおける場合のように分オーダーの持続を示さなかった。またその発火パターンもスライスでは認められなかったバーストタイプで、0.5-1秒程度高頻度発火が持続するという状態が散発的に起こった。スライスの細胞外記録や細胞内記録ではバーストは認められず、トニックな発火パターンで発火頻度が100Hz以上に上昇する。従ってスライスで認められた10-20秒間続く高頻度発火のプラトーには細胞間相互作用もしくはintactな細胞形態が必要である可能性が示唆された。スライスにおける急激な発火頻度上昇(multi-minute oscillation)はlow Ca^<2+>,High Mg^<2+>で抑制されたので、multiminute oscillationにはシナプス伝達が必要であることが示唆される。ただし本oscillationは、GABAA、GABAB、non-NMDAならびにNMDA-typeの各受容体阻害条件下でも生じ、現在同定中である。 (4>SNrにおける正常細胞外グルコース濃度を実測するためのグルコース電極開発を進めている。また細胞間相互作用がグルコース感知機構にどのように関与するかを解析する為に、蛍光標識グルコース2-NBDGを用いたリアルタイムグルコース取り込み技法(Yamada et al., Nature Protocol,2007)を各種イメージングと組み合わせて検討中である。
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