心筋ミトコンドリアNa+/Ca2+交換機能はミトコンドリア内膜電位に依存すると考えられてきた。これを検証する目的で以下の実験を行った。ラット心室筋細胞のミトコンドリアにRhod-2AMを負荷した後、サポニンを用いて細胞膜を透過性にすることで、ミトコンドリア内Ca2+を測定するシステムを確立した。蛍光は共焦点顕微鏡を用いて観察した。300 nM Ca2+を含む溶液を灌流しミトコンドリア内Ca2+を増加させた後、無Ca液に交換することでミトコンドリアNa+/Ca2+交換を活性化すると、細胞質Na+濃度依存性にミトコンドリアCa2+は減少した。TMREを負荷した心室筋細胞においてミトコンドリア内膜電位を測定したところ、同じミトコンドリアNa+/Ca2+交換活性化プロトコールにおいて、内膜電位はほとんど変化しなかった。このことはミトコンドリアNa+/Ca2+交換の起電性がほとんど無いことを示唆する。次に、ミトコンドリア内膜電位を脱分極させたときの、ミトコンドリアNa+/Ca2+交換を介するCa2+排出速度を測定した。内膜の脱分極は、NS1619(BKチャネル開口薬)、FCCP(H+イオノフォア)、またはミトコンドリア基質(ピルビン酸、コハク酸等)除去により誘発し、それぞれ、脱分極は10分以内に定常に達した。これらの実験条件におけるミトコンドリアNa+/Ca2+交換を介するCa2+排出速度は生理的膜電位が維持されている時と比べて有意な差は無かった。これらの実験データは、心室筋細胞ミトコンドリアNa+/Ca2+交換の、ミトコンドリア内膜電位に対する依存性はほとんど無いことを示す。
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