研究概要 |
細胞は細胞外の環境変化を感受して適切に応答するシステムが必須だと考えられるが、そのメカニズムは明らかにされていない。本研究は、腎臓の遠位尿細管・集合管の上皮細胞において、血漿浸透圧低下を感知し、応答するメカニズムを明らかにすることを目的として申請された。本研究の仮説では、低浸透圧刺激は、細胞内のシグナル分子と考えられるクロライドイオン濃度変化を介して、センサー分子と考えられるsrc kinaseを活性化して、細胞応答である上皮型Na^+(ENaC)遺伝子発現を介したNa^+再吸収の亢進を引き起こすというものであった。しかし、研究結果から、クロライドイオン濃度変化を感受していたのは、src kinaseの活性化部位(Tyr416)のチロシン脱リン酸化引き起こすチロシン脱リン酸化酵素であることが強く示唆された。低浸透圧刺激は、細胞容積変化を介して細胞内のクロライドイオン濃度を低下させ、クロライドイオン濃度依存的に活性化する上記のチロシン脱リン酸化酵素を不活性化させた。結果としてsrc kinaseの活性化部位のチロシンリン酸化を増大させて活性化した。一方、恒常的な(長期的な)低浸透圧刺激は、ENaCのすべてのsubunits、α-ENaC,β-ENaC,γ-ENaCの遺伝子発現を増大させてNa^+再吸収を元進し、さらに、src kinaseの特異的阻害剤がこのNa^+再吸収を著しく阻害することも明らかにした。src kinaseの各subunitsの遺伝子発現への影響を検討したところ、src kinaseはβとγsubunitsの遺伝子発現を亢進させ、Na^+再吸収を亢進していることが明らかになった。このように、血漿浸透圧低下という刺激は遠位尿細管・集合管の上皮細胞に感知されNa^+再吸収を亢進することで体液浸透圧を正常に保つという生理的な機能が備わっていることも明かとなった。
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