研究課題
基盤研究(C)
腎臓におけるナトリウム再吸収は、体液量やその組成などの恒常性維持や血圧調節に重要な役割を担っており、血漿浸透圧や様々なホルモンによる調節を受けている。我々はこれまでに長期的な低浸透圧刺激が上皮型ナトリウムチャネル(ENaC)のalpha-subunit遺伝子発現を介してナトリウム再吸収を亢進し、さらに、細胞容積変化を介した細胞内クロライド濃度([Cl^-]_i)減少依存的にsrc kinase(チロシンキナーゼ)の活性制御に関わることも見出した。これらの結果を踏まえて、「低浸透圧刺激は、細胞容積変化を介する[Cl-]i減少によりsrc kinaseを活性化し、活性化したsrc kinaseはENaC遺伝子発現を亢進して、ナトリウム再吸収を促進する」との仮説を立て、低浸透圧刺激によるナトリウム再吸収亢進メカニズムの解明を目的に、研究を行なった。その結果、以下のことを明らかにすることができた。1.低浸透圧刺激は、細胞容積膨張とそれに引き続く調節性容積減少により2段階に[Cl^-]_iを減少させる。2.[Cl^-]_i減少は、src kinaseの活性化部位のチロシンリン酸化レベルを増大させて、src kinaseを活性化させた。3.クロライド依存的なsrc kinaseの活性に対するチロシンフォスファターゼ(PTP)阻害剤の影響から、src kinaseの活性化部位を脱リン酸化するPTPは、[Cl^-]_iが高いときに活性が高い。4.src kinaseの特異的阻害剤は、ENaCの遺伝子発現・ナトリウム再吸収亢進を抑制した。これらの結果から、長期的な低浸透圧刺激は、細胞内の[Cl^-]_i減少を介してsrc kinaseの活性化部位を脱リン酸化するPTPの活性を低下させ、結果としてsrc kinaseの活性化を引き起こす。活性化したsrc kinaseは、下流の転写因子の活性化を介してENaCの遺伝子発現を亢進し、ナトリウム再吸収を亢進していると考えられる。
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