研究概要 |
本研究の目的は、1)心室筋細胞の分岐構造(自動能発現・停止過程での安定性とダイナミクス)を解析して、心室筋における自動能発現の力学的機序を解明すること、2)心室筋由来バイオペースメーカー(BP)細胞作成のためのシステム設計を行うこと、であった。 まず、分岐構造解析に適した新しいヒト心室筋細胞モデルを作成し、本モデル(及び洞結節細胞モデル)システムの平衡点と活動電位ダイナミクス(及びその安定性)のパラメータ依存性変化を解析(分岐図を作成)するためのプログラム群を構築した。この分岐解析システムを用い、(1)心室における早期後脱分極の力学的発生機序、(2)ヒト心室筋由来BP細胞作成のための最適システム修飾方法、(3)BP細胞の構造安定性強化における各種ペースメーカー電流導入の意義、(4)洞結節自動能の発生機序と構造安定性における結節内部位差、を検証した結果、以下のことが明らかとなった。 1.QT延長症候群(LQT2,3)の心室筋に発生する早期後脱分極は遅延整流K+電流(IKs)の遅い活性化に伴う一過性の周期軌道であり、IKs活性化の促進によって抑制される。 2.ヒト心室筋細胞からのBP細胞作成には内向き整流K+電流(IK1)の抑制が不可欠であり、過分極活性化陽イオン電流(Ih)はIK1抑制によるBP活性の発現を促進する。 3.BP細胞の電気緊張性負荷に対する構造安定性の強化には持続性内向き電流(lst)の導入が最も有効である(心室筋ではIh導入の効果は少ない)。 4.洞結節の辺縁部細胞は中心部細胞に比べて過分極負荷に対する構造安定性が高い。Na+チャネル電流(INa)が構造安定性の強化に寄与しており、ペースメーカーの安定な歩調取りとドライブ機能の維持にはINaが不可欠である。 これらの成果は、分岐理論に基づいた最適な自動能制御方法の確立並びに構造安定なBPシステム構築のための理論的基盤を与えるものである。
|