研究概要 |
3型QT延長症候群(LQT3)におけるQT延長は、心筋Naチャネルの不活性化障害に起因する遅延Na電流により生じる。LQT3患者における突然死や致死性不整脈の発症は、安静時や就寝中など徐脈時に生じやすいことが疫学的研究で示されており、ペーシングにより心拍数を増加させると著明にQT時間が短縮する。しかしながら、なぜ不整脈発作が徐脈時に生じるのかという内因性メカニズムについては明らかでない。本研究では、この表現形としての特徴が変異イオンチャネルによってもたらされる異常Na電流の内因性のメカニズムによって説明できるかどうかについて、Naチャネル変異遺伝子(R1623Q)を用いて検討した。ヒト心筋Naチャネルαサブユニット(hH1)の野生型および変異型(R1623Q)のcDNAをHEK293細胞へtransfectionし、発現Na電流をwhole-cell patch clamp法を用いて室温下(23℃)で測定した。通常の矩形波を用いて、保持電位(-80mV,-120mV)から-20mvまでの脱分極トレイン刺激(50回)をさまざまな頻度(0.5,1,2,5Hz)で加えたときのピークNa電流と遅延Na電流の変化を検討した。ピーク電流と遅延Na電流ともに頻度依存性に減少したが、その減少の程度に差は認められなかった。刺激波形としてより生理的な条件に近い活動電位波形を用いて膜電位固定(action potential clamp)を行なうと、活動電位の再分極相におけるNa電流(phase 3 I_<Na>)はピーク電流に比べより強い頻度依存性を示した。ピークNa電流と遅延Na電流の頻度依存性減少が、刺激方法により差が生じたメカニズムを説明するためにkineticsを検討した。その結果、生体における静止膜電位に近い膜電位-80mV付近では、R1623Qの不活性化からの回復が野生型に比べ有意に早いことが判明した。これは、R1623Qの遺伝子変異の部位が、Naチャネルの電位センサーの部位にあり、変異による荷電の減少で膜電位依存性の反応が低下していることに起因していた。したがって、R1623Qにおける頻度依存性の遅延Na電流減少は、非平衡状態における不活性化からの回復の亢進に起因すると考えられた。非平衡状態におけるphase 3 I_<Na>の頻度依存性減少はLQT3患者の著明な頻度依存性QT短縮を説明する新たなメカニズムである。この知見はLQT3患者の遺伝子-表現形連関を考える上で重要であり、臨床的にはペーシング治療の有用性の電気生理学的機序を明らかにするものである。さらに、心臓Naチャネルの膜電位センサーであるドメインIVのS4セグメントの機能を理解する上でも重要である。
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