研究概要 |
背景および目的:薬剤性QT延長症候群の機序としては,遅延整流性カリウム電流(hERG電流)の直接抑制が主因とされているが、最近hERGチャネル蛋白の輸送異常(trafficking defect)も新しい機序として報告されている。本研究では、致死性不整脈の発症に関わるイオンチャンネルの内因性メカニズムの解明するために、薬剤性QT延長症候群が報告されているケトコナゾールを用いて、hERG電流の直接抑制(急性作用)とhERGチャネル蛋白の輸送異常(慢性作用)が併存ずるがどうかについて検討した。方法:ヒト胎児腎由来細胞(肥K293細胞)に野生型hERGチャネルおよび薬剤共通結合部位に変異を加えたチャネル(Y652AおよびF656C)をそれぞれ恒常的に発現させ、パッチクランプ法を用いてhERG電流の評価をおこなった。また、ウェスタンブロット法およびフローサイトメトリー法を用いてhERGチャネルの蛋白輸送の評価を行った。結果:ケトコナゾールは野生型 hERG 電流を濃度依存性に直接抑制した(IC_50は1.9μM)。このhERG電流の直接抑制作用はY652A、F656C変異体チャネルでは有意に減弱した。ケトコナゾール慢性投与後(48時間)のウェスタンブロット法を用いたhERGチャネル蛋白定量では、未成熟型hERG チャネル蛋白(〜135kDa)量には変化なく、成熟型hERGチャネル蛋白(〜155kDa)量が濃度依存性(0.1μM-30μM)に減少した。また、細胞膜表面のhERGチャネル蛋白の発現量およびhERG電流密度も同様に濃度依存性に減少した。ケトコナゾールによる成熟型hERGチャネル蛋白の減少は、ケトコナゾール中止後も遷延し、中止48時間後も76%までしか回復しなかった。Y652A、F656C変異体ではケトコナゾールによるhERGチャネル蛋白の発現量の変化には影響を与えなかった。 結論:ケトコナゾールがQT時間を延長させる機序には、hERG電流の直接抑制作用に加えて、hERGチャネル蛋白の輸送異常も関与していることが判明した。従って、新しい薬剤を評価する際はhERG電流の直接抑制という急性効果だけでなく、hERGチャネル蛋白の輸送異常という慢性効果も考慮する必要がある。
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