研究概要 |
全ての細胞は、酸化や機械的ストレスなど種々のストレスを受け得る。これに対し、細胞内にはその生死を決定する細胞内ネットワークが存在するが、それを"サバイバル"方向に維持することが細胞変性を防ぐ上で特に有効である。細胞内Ca^<2+>の過剰負荷は細胞死の引き金となるが、一方、微量のCa^<2+>濃度変化は、それを感知する特定のCa^<2+>結合タンパク質を介して様々な細胞応答を引き起こし、その中でサバイバル経路も活性化し得ることが近年指摘されている。従って、このような働きを持つCa^<2+>関連タンパク質を発見し、その作用機構を詳細に明らかにすることは、細胞を保護する新たな治療戦略につながる基盤研究として重要である。 NCS-1 (Neuronal Ca^<2+> sensor -1)は、主に神経や心臓に発現しているCa^<2+>結合タンパク質で、私達が以前見出したイオンチャネルの制御因子としての働きの他、シナプス伝達や可塑性を制御するなど神経機能に重要な働きを持つことが知られている。しかし、NCS-1の興奮性細胞のサバイバル/アポトーシス経路における役割については全く報告がなかった。私達は本研究の中で、 1)神経切断や各種ストレス下の神経細胞において、NCS-1の発現量が増加する。 2)その生理的意義はサバイバル促進作用である。 3)NCS-1は、サバイバル作用をもつ神経栄養因子GDNFの下流に存在し、PI3K/Aktの経路を活性化することにより、そのサバイバル作用を仲介する。 4)神経切断時においても神経が死滅しないのは内因性の抗アポトーシス機構によるものであるが、それにNCS-1が重要な役割を果たしている。 という4つの点に関し、in vitro, in vivo両方の系で示し、2006年のJ Cell Biolに掲載した。これらの知見は、生命現象の解明のみならず、各種神経変性疾患の予防、診断、治療のための新たな分子的戦略が得るうえで大いに役立つことが期待される。
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