体液移動に伴う、心拍変動を指標とした神経性血圧調節機能評価と、血圧調節における内耳前庭系の役割を検討した。 下半身陰圧・陽圧負荷装置にて、仰臥位にて陰圧(0〜-40mmHg)あるいは立位にて陽圧(0〜+40mmHg)を10mmHg間隔で負荷した。このとき心電図、動脈血圧、腓腹部周囲径を計測した。心電図からR-R間隔を計算し、ウェーブレットパケット変換にて低周波成分(LH)、高周波成分(HF)を経時的に評価した。臨床的に副交感神経の指標として用いちれるHFはControlに比して-20〜-40mmHgでは有意に減少を認めた。一方、交感神経活動の指標とされるLF/HFは-30、-40にて有意に上昇を認めた。逆に、陽圧負荷ではControlに比して+20〜+40mmHgにおいてHFが低下し、LF/HFが有意に増加した。またこれまで不明であった、体液シフトの瞬間の心拍変動を、ウェーブレットパケット変換によって経時的に追跡することができた。心拍変動の経時的評価として、この解析方法は有用であると考えられた。 意識下ラットにおいては、1Gから微小重力に曝露すると動脈血圧の有意な上昇を認めた。内耳破壊によってこの上昇は有意に抑制された。この、内耳前庭系による動脈血圧調節の影響をヒトにおいて検討するために動脈血圧を計測しつつ、仰臥位から立位への姿勢変化させ、さらにランダムパターンによるGalvanic Vestibular Stimulation (GVS)を行った。仰臥位から立位への姿勢変化時にControlでは動脈血圧は15mmHgの低下を認め、その後前値に徐々に復した、GVSによってこの低下は抑制される傾向にあったがControlに比して有意な差を認めなかった。ランダムパターンによるGVSによって内耳前庭系による姿勢変化あるいは体幹に対する重力方向変化の感知、それによって引きこされる血圧調節は減弱する、あるいは確率共振的反応によって逆に増強すると仮説を立てたが、いずれも今回の実験では有意な変化を得られなかった。今後さらに刺激、姿勢、体液シフトパターンを変化させて検討を加える予定である。
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