動物実験 ラットに内耳電気刺激(GVS)用電極を慢性的に埋め込み、微小重力および過重力負荷を行った際の動脈血圧を連続的に計測した。両条件についてGVSを行っていない状態では動脈血圧は有意に上昇した。これは電極を埋め込まなかったラットと同程度であった。しかしGVSを行うとこの上昇は有意に抑制され、その抑制は内耳破壊ラットと同程度であった。したがって急性の重力変化時には重力の方向に関係なく動脈血圧は上昇すること、それに内耳前庭系が重要な役割を果たしていること、GVSは内耳前庭系への入力をかく乱し、重力変化に対して内耳破壊同様の効果が得られることがわかった。 ヒト実験 動脈血圧、胸郭インピーダンス、下腿径を連続計測しつつ仰臥位から60°頭高位(HUT)に姿勢を変化させたとき、また仰臥位のまま姿勢変化と同様の下腿径変化、すなわち体液シフトをもたらす下半身陰圧負荷を行った(LBNP)。HUTでは動脈血圧はほとんど変化しなかったが、LBNPでは開始直後に有意な低下を認めた。また、HUTおよびLBNPそれぞれについて経皮的にGVSを行い、内耳入力をかく乱させたところHUTにおいても動脈血圧はLBNP同様に低下した。これらのことから姿勢変化時の動脈血圧調節には内耳前庭系が重要な役割をしていることが明らかになった。またパラボリックフライトによる短時間の重力変化に対して同様の実験を行ったところ、過重力負荷時の動脈血圧上昇はGVSによって有意に抑制された。
|