<背景・目的>昨年度の研究成果では、ドコサヘキサエン酸(DHA)は、神経幹細胞からニューロンへの分化を促進することが明らかにしたので、本年度は、その分化促進作用機序を明らかにする事を目的とした。神経幹細胞の維持と分化には、ベーシック・ヘリックス・ループ・ヘリックス(bHLH)転写因子の関与が明らかにされており、Hairy and Enhancer of split homolog(Hes)1とHes5は神経幹細胞の分化を抑制し、細胞増殖を促進する。一方、同転写因子のMash1、neurogenin1やNeuroDは分化を誘導する遺伝子を活性化する。神経幹細胞の分化はこれら転写因子のバランスにより制御されていると考えられている。本研究では、神経幹細胞にDHAを作用させ、bHLH転写因子の発現量がどのように変化するかを、Real-Time PCR法を用いて、経時的に測定した。 <結果>神経幹細胞の分化誘導に関与する因子であるNeurogenin1のmRNA発現量は、DHA添加12時間後でコントロールと比較して約6倍増加したが、その後、コントロールとの差は認められなかった。一方、分化を抑制し、増殖促進に関与する因子のHes1のmRNA発現量は、DHAの添加6時間後から有意に減少し、この状態は4日目まで持続した。Mash1とHes5にはDHA添加による変化は認められなかった。 <結語>DHAは、神経幹細胞の増殖を促進するHes1の発現を抑制し、bHLH転写因子のバランスを変化させて神経幹細胞からニューロンへの分化誘導を促進させることが推察される。今後、分化促進に関与する別の因子や、ニューロンへの分化の指標になる遺伝子の発現量を測定し、DHAによる神経幹細胞からニューロンへの分化促進作用機序をより明確に解明する必要がある。
|