我々は、アデノシンA2A受容体ノックアウトマウスにおいて、野生型では見られない血圧・心拍数のレム睡眠期に特異的な増加が見られることを見出し、2005年に報告した(巻末に添付)。本研究は、アデノシンA2A受容体とレム睡眠期の循環動態の関連性をさらに詳細に検討することを目的とした。マウスを用いた投与実験などから得られた結果は下記のごとくである。 1)アデノシン受容体の非選択的阻害剤であるカフェインの投与では、覚醒期・睡眠期を通して、血圧・心拍数に有意な影響を与えなかった。 2)アデノシンA1受容体阻害薬(CPT)、A2A受容体阻害薬(SCH58261)、いずれの経口投与によっても、レム睡眠期の血圧・心拍数変動に影響を与えなかった。 3)アデノシンA1受容体阻害薬はマウスの不安行動を増強したが、A2A受容体阻害薬は増強しなかった。 4)レム睡眠期においては、呼吸のリズムが乱れ無呼吸が発生するが、一過性の血圧上昇には無呼吸が先行して発生しており、呼吸賦活剤であるacetazolamideの投与によって、血圧上昇が抑制された。 アデノシン受容体に関わる薬物投与は、マウスの血圧・心拍数に影響を与えなかった。このことは、アデノシン受容体の血圧・心拍数調節における役割が大きくないことを示している。アデノシンA2A受容体ノックアウトマウスに見られた結果は、「受容体が存在しないこと」以外の原因によって引き起こされた可能性を示唆している。 今回の報告では、結局、なぜアデノシンA2A受容体ノックアウトマウスにおいて、レム睡眠の血圧・心拍数が上昇するのか、という問いには答えられなかった。しかし、レム睡眠期の血圧変動が呼吸と密接に関連していることが新たに確認できたので、今後は、アデノシン受容体と呼吸機能についても検討していく必要がある。
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