感染、腫瘍、などによる免疫学的ストレスに対し、生体は免疫系の活性化だけでなく、神経・内分泌系を動員して発熱やACTH分泌などの対応を行うが、一方で、不安などの情動や学習記憶障害、あるいは中枢性疲労など、高次脳機能にも影響が出てくる。本研究の目的は、免疫学的ストレスに対する高次脳機能の反応に注目してその条件づけを試み、関与する脳内物質を明らかにすることである。本研究による成果を列挙すると、 1.ラットに合成2重鎖RNAであるpoly I:Cを腹腔内投与し、ホームケージ内の回転カゴをラットが自発的に回した回転数の低下によって疲労を誘発すると、大脳皮質および視床下部において、インターフェロン-αおよびセロトニントランスポーターの発現が長期にわたって増強することが明らかになった。 2.poly I:C投与の無麻酔ラット内側前頭前野では、過剰発現したセロトニントランスポーターによってセロトニン濃度が持続的に低下するが、ノルアドレナリンは一過性の低下、ドーパミンは変化しないことなどを、脳内微小透析法により明らかにした。 3.インターフェロン-αを前頭前野局所に注入すると、同部位のセロトニン濃度が低下し、それが選択的セロトニン取り込み阻害剤(フルオキセチン)によって阻害されることから、セロトニントランスポーターの機能亢進が示唆された。 4.poly I:Cによる不安行動、および疲労がセロトニン1A受容体アゴニストによって、減弱することが明らかになった。 5.poly I:Cによる疲労を、サッカリン水で条件づけすることができ、さらにその条件づけがセロトニン1Aアゴニストの投与で消去されることが明らかになった。 6.以上から、poly I:Cによる感染ストレスモデルでは、脳内インターフェロン-αとセロトニン系の関与により、疲労、不安行動が発現し、それが条件付けされることが明らかになった。
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