ラット心筋由来H9C2細胞を用いて、NCX1のmRNAと蛋白発現量が、高脂血症治療薬の1つであるフルバスタチン(FLV)で濃度依存的に阻害されることを見出した。そこで、その機序を調べた。Flvの抑制作用はメバロン酸で回復することから、FlvがHNG-CoA還元酵素を阻害してNCX1発現を抑制していることが分かった。さらに、この作用は、メバロン酸の代謝産物である、ゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)やファルネシルピロリン酸(FPP)の添加で回避されることから、GGPPやFPPにより活性化される低分子量Gタンパクの関与が示唆された。そこで、どの低分子量Gタンパクが関与するかを調べた。Rhoを特異的に阻害するC3ボツリヌス毒素をアデノウイルス組み換えDNAを用いて細胞に発現させると、NCX1発現は抑制された。しかし、活性型RhoAやRasの発現はNCX1量に影響しなかった。このことは、RhoBの活性化がNCX1発現に関与することを示唆する。これを確かめるため、RhoBを標的とするsiRNAを設計し、細胞に移入すると、RhoBタンパク発現は低下し、NCX 1 mRNA発現量は低下した。RhoAを標的とするsiRNAの形質移入では、NcX1発現は変化しなかった。このことから、心筋のNCX 1 mRNA発現に、RhoBの活性化が関与していることが分かった。FlVがNCX 1 mRNAの合成系か分解系のどちらに作用するか調べた。mRNA合成阻害薬dichlorobenzimidazol riboside(DRB)存在下で、Flvを作用させると、NCX 1 mRNAの半減期は短くなった。この結果は、RhoBがNCX 1 mRNA安定性の維持に関与していることを意味する。更に、リゾフォスファチジルコリン(LPC)はNCX1のmRNAとタンパク発現量を増加させた。この作用もC3毒素で抑制された。また、LPCはRhoBの膜への移行を促すことから、LPCのNCX 1発現量増加作用にもRhoBが関与していること示唆された。これらの結果は、Molecular Pharmacology(2005)に論文として発表した。現在さらに詳しくその系路を調べている。
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