スタチン系高脂血症治療薬の1つであるフルバスタチンは、血中のコレステロールの濃度を下げる働きがあるが、その他に、プレイオトロピック効果と呼ばれる多彩な作用を示す。その1つは、遺伝子の発現量の調節である。心筋のNa^+/Ca^<2+>交換輸送体(NCX1)は、細胞内から外へCa^<2+>を排出させる主な機構であるが、虚血再灌流などの病的状態では、逆回転して、細胞外から内へCa^<2+>を流入させ、Ca^<2+>過負荷を起こすため、正常な心臓のみならず、病因的にも重要なトランスポータである。NCX1の遺伝子の発現量は、いろいろな状態で変化することが知られている。そこで、フルバスタチンのNCX1の遺伝子発現に対する作用を調べた。H9c2細胞は、ラット胎児の心筋由来細胞株である。H9c2細胞はNCX1を発現しているので、これを用いて、フルバスタチンの作用を調べた。すると、フルバスタチンは、NCX1mRNAの発現量を抑制した。この作用は、フルバスタチンがメバロン酸合成を阻害するため、下流で生成されるはずのイソプレノイドであるゲラニルゲラニルピロリン酸(GGPP)が枯渇するためであることが分かった。また、この場合のGGPPの標的は、低分子量G蛋白質のうちのRhoBであった。一方、リゾフォスファチジルコリン(LPC)は、悪玉コレステロールと呼ばれるlow density lipoprotein (LDL)の主成分である。我々は、LDLがNCX1のmRNA発現量を増加させることも見出した。そこで、その機序を調べた。LPCによるNCX1mRNA発現量の増加は、ゲラニル転移酵素の阻害薬で抑制された。即ち、LPCがゲラニル転移酵素を活性化させることによって、RhoBを介してNCX1のmRNA発現を亢進させている可能性がある。なお、これに伴い、NCX1の蛋白量も増加していることを確かめた。
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