1)E2Aによるクロマチン構造変化に関わる因子の解析 遺伝子導入効率の高いBOSC細胞にE2AとRAG1/2を共発現させると、内在性のIgκ遺伝子で組換えを誘導することができる。この系を用いて、E2AがIgκ遺伝子の可変領域に結合し、ヒストンH3、H4のアセチル化とH3-K4のメチル化の上昇を介して転写を誘導することを見いだした。そこでE2Aによって動員されるヒストンアセチル化酵素を検索したところ、CBP/p300がE2Aと結合し、実際にE2AによってIgκ遺伝子可変領域にリクルートされることがわかった。さらにE2Aと共にCBP/p300を過剰発現させたところ、H3-K18のアセチル化が特異的に促進され、転写と組換えが増強されること、逆にsiRNAによって内在性のCBP/p300をノックダウンすると、H3-K18のアセチル化が低下し、転写と組換えも低下することから、E2AがCBP/p300をリクルートし、ヒストンアセチル化の上昇を介して組換えを誘導することがはじめて証明された。 2)対立遺伝子排除の核内分子機構と生物学的意義の解析 E2A欠損マウスではTCRβ遺伝子組換えが顕著に阻害されており、それは組換え部位における転写とヒストンアセチル化の低下によることを見いだした。組換えと転写の低下は、E2Aヘテロ欠損マウスでもみとめられたことから、E2Aは遺伝子座の活性化における律速因子であることが示唆された。さらにE2AがCBPを伴って組換え部位に結合し、ヒストンアセチル化の上昇を介してRAGの接近を促進させること、さらに対立遺伝子排除を惹起する組換え抑制シグナルによってそれらが低下することがわかった。そこで、強制的なTCRの発現により、内在性TCRβ遺伝子の組換えが抑制されているTCRトランスジェニックマウスの胸腺細胞にE2Aを過剰発現させたところ、組換えが誘導されうること、すなわち対立遺伝子排除が破綻することが明らかとなった。以上の結果から、E2Aは遺伝子座活性化における律速因子であり、それが片方の染色体でのみ組換えが誘導される分子基盤であること、さらに組換え抑制シグナルがE2Aを標的として対立遺伝子排除を惹起することが明らかとなった。
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