チオレドキシン(TRX)は細胞内において種々の酸化ストレスによりその発現が誘導され、酸化還元(レドックス)を介して細胞内シグナル伝達を調節している。また、細胞外においてもTRXは細胞増殖・細胞保護作用を含むサイトカイン・ケモカイン様作用をもつことが明らかにされている。我々はTRXが細胞内に取り込まれることを発見し、その取り込み機構について解析を行つてきた。 昨年度までに近藤らにより、TRXの活性部位である35位のシステインをセリンに変異させた改変体を用いて基礎的実験を行った結果、TRX改変体の細胞膜への結合、細胞内への取り込みが明らかとなった。これらの現象は、ウイルス感染T細胞、活性化T細胞において顕著に観察されたことよりTRX改変体の取り込みにはリピッドラフト構造がその機能に関与していることが示唆された。また、この改変体はTRXの細胞への結合および取り込みを解析するツールとしても有用であると考えられた。 本年度は取り込まれたTRX改変体の生物学的作用について解析を行った。 シスプラチンによる細胞死誘導モデルを用いて、細胞内に取り込まれたTRX改変体の生物学的作用を検討した。その結果、改変体で細胞を前処理することにより、細胞死の割合が促進することが明らかになった。そのメカニズムのひとつとして、改変体が内因性TRXと結合することによつて細胞内活性酸素種(ROS)が増加し、apoptosis-regulating signal kinase-1(ASK-1)を活性化することによることが明らかとなった。
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